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2020年度 研究シーズ

自励振動式ヒートパイプ冷却超伝導マグネット

核融合科学研究所・教授 三戸 利行

研究キーワード

超伝導 , 自励振動 , ヒートパイプ , 液体水素 , 貯蔵 , 磁気浮上 , 超伝導磁気エネルギー貯蔵

セールスポイント

  • 自励振動式ヒートパイプ(OHP)を用いた冷却技術の活用
  • 高熱負荷運転にも対応可能となる高温超伝導マグネットの冷却⽅式
  • 超伝導磁気エネルギー貯蔵装置や液体水素貯蔵装置など

研究概要

高温超伝導は低温超伝導に比べて冷却は楽になるものと一般的には誤解されている。しかし、運転温度の上昇に伴って、超伝導マグネットを構成する材料の熱拡散率はむしろ低下するため、固体熱伝導のみに頼るとマグネット内で発生した熱は外部に伝わるのに時間がかかることになり、マグネット内の発熱を除去しづらい状態となる。結果として熱暴走や巻線内のホットスポットの発生等、マグネットの焼損につながる危険な状態に陥りやすい。個体熱伝導に頼らない高温超伝導(HTS)マグネットの新しい冷却方式として自励振動式ヒートパイプ(OHP)を巻線内に組み込むことにより、高い熱輸送特性の実現と同時に、高い熱拡散率による応答の早さを実現することができる。
OHPは、ヒートパイプ内に自発的に発生する自励振動を利用して熱を輸送する熱輸送素子である。気液2相の作動流体で満たされたヒートパイプ流路は、加熱端と冷却端の間を繰り返し折り返した構造をしている。加熱端と冷却端の温度差によって、自励振動が発生し、加熱端から冷却端に素早く効率的に熱を輸送することができる。

HTSコイル
OHP動作原理図

応用事例・使用用途など

燃料電池車の市販が開始されるなど、地球環境に優しい水素社会の実現に向けた新たな研究への取組が求められている。核融合研究でこれまでに開発された技術を最大限に活用し、早期の課題解決が必須とされている水素の効率的な貯蔵方法として、HTSマグネットを用いた磁気浮上で、液体水素容器を支持することで、低熱侵入かつ高効率で、地震等の災害にも強い、安心・安全な液体水素貯蔵技術の確立を目指す。OHPを巻線内に組み込むことにより、超伝導磁気エネルギ-貯蔵装置や磁気浮上用HTSマグネットに必要な高熱負荷特性を達成することができる。

研究内容

液体水素を貯蔵する際、最も重要となるのは、安全性を確保しつつ、いかに熱負荷を低減できるかにある。ここでは、対となる高温超伝導(HTS)コイルを用いて断熱真空中で液体水素容器を磁気浮上させることにより、支持材からの伝導による侵入熱を極限まで低減する。更に断熱真空層に中間温度のシールド板を設けることにより、輻射による入熱も最小に抑えることができる。この際、液体水素容器側に取付けた浮上HTSコイルは永久電流モードで運転され、地上側に設置した支持HTSコイルは制御電源に接続されて、液体水素容器の浮上位置が一定になるように支持HTSマグネットの電流値が制御される。更に、地震等の災害発生時には、液体水素容器の振動を抑制する免震制御を実施し、高度の安全性を同時に確保する。
将来の安心で効率的な液体水素の大量備蓄を可能にする方策として、図にLNGタンカー等で用いられる直径40m級の球形タンクを想定した磁気浮上の例を示す。タンクの内容積は33,500m3、貯蔵できる液体水素の重量は約2,000t、タンクの空重量が1,000tのため、浮上させる総重量は3,000tになる。ここでは、底部に4対の磁気浮上用コイルを配置し、赤道面に横揺れ防止用の補助コイルを配置した。HTSコイルの動作温度を20Kとすると、現在市販されているBi2223多芯テープ線材を用いても、上記の貯蔵タンク用HTSコイルの設計が可能なレベルにまでHTS線材の性能は上がってきている。

図: 超伝導コイルによる液体水素磁気浮上

関連する特許出願番号・特許番号

特許第5424107号(特願2009-241397)

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