低周波数で位相比較を可能にする光信号位相比較方法
研究キーワード
マイクロ波フォトニクス信号 , 光位相同期 , 光信号直接位相比較
研究概要
光信号2波の差周波数信号として伝送される高周波基準信号と光位相同期発振器出力の2光波信号を、それぞれ高周波光検出器(フォトミキサ)で高周波電気信号に変換後位相比較するのではなく、低周波光検出器2個を用いて位相比較を行うことを可能にする光信号位相比較方法です。高周波基準信号をコヒーレントなレーザ光2波の差信号として発生・伝送することが可能です。これにより広大なコヒーレント系を構築することができます。
近年、光2波で伝送される基準信号は低周波から100GHz以上の高周波帯域に及んでいます。従来、光ファイバ伝送先で位相同期系を構成するためには、伝送される光高周波基準信号を光・電気信号変換し、電気的な高周波基準信号として取り出し、位相同期を行うことで光位相同期発振器を構成していました。このため高周波広帯域システムでは、光・電気信号変換に用いられる高周波フォトミキサ、周波数変換用の高周波ミキサ(ハーモニックミキサ)が多数必要であり、システムを高価で複雑なものにしていました。もし位相比較を高い周波数では無く低い周波数で処理することが可能であれば、位相同期ループ内に多数の高周波フォトミキサや高周波ミキサなどを用いなくて済むようになります。
本方式では光基準信号を直接光電気変換することなく、伝送された光基準信号と光周波数シフタを用いて周波数シフトされた光位相同期発振器信号の位相差を低周波光検出器2台で変換後に差位相を測定することで実現しています。この方式では、広い周波数に渡り同一の低周波光検出器2台で対応可能です。
例えば、第1図のように遠隔局において光位相同期発振器で高周波マイクロ波光信号(光2波)を生成している場合を考えます。この信号を基準局より伝送された光基準信号(第2図黒で表示)に位相同期させることを想定します。この時、両者はコヒーレントであるものとします(例えば両者が共通レーザ源から発生:論文[2])。この時、光位相同期発振器出力と外部光基準信号はほぼ同じ光信号周波数を持っています。光電気変換後に高周波位相同期回路を用いるのが従来の方式であるが、この場合は高周波の光電気変換器、位相比較器が不可欠です。
本発明では光位相同期発振器出力信号に対して光周波数シフタで周波数シフトを予め行います(第2図赤で表示する信号)。伝送された光基準信号Aと周波数シフトされた光位相同期発振器信号Bは混合され(第2図)、その後に光分波器で分離されます。分離された信号(aとb)は、それぞれ低周波の光検出器で光電気変換が行われた後で位相差を検出します(二重位相差検出)。AとBの周波数差(位相差)「A-B」は、aとbの差と等価です。つまりA-B = a-b となり、低周波信号どうしの差「a-b」を求めればよいことになります。aとbは、発生される周波数(AまたはB)に依らず周波数シフト量とほぼ同じ周波数です。このことは、広帯域信号にも対応可能であることを示しています。
シフト周波数の影響は、光2波で共通な量であるために差位相の検出時に除去されます。これにより高周波電気信号での処理も必要なくなります。
想定される応用先・連携先
高周波天文学、超高速光通信分野への応用、およびマイクロ波からテラヘルツ波を使用する分野への応用が可能です。
アピールポイント
本装置の特徴は、以下の通りです。
- 光高周波基準信号を直接光電気変換することなく、光高周波基準信号位相と光発振器位相差を得るために、光周波数シフタを用いたり、光2波発生手段の光源のレーザ波長を僅かにずらすことで低周波光検出器2台の差として測定する方式。
- 光基準信号を高周波数のまま電気信号に変換せず、直接入力する光発振器。
- 低周波から高周波までの光高周波基準信号に対して同一の低周波光検出器2台で対応可能。
- 位相比較を低い周波数で行い、位相同期ループ内に高周波フォトミキサや高周波ミキサなど高周波部品が不要。
- ファイバ長距離伝送信号の振幅スタビライザとしての応用も可能(ファイバでの伝送では光信号の振幅・位相が影響を受け変動する。位相変動はラウンドトリップ法などで補償可能である。)。
- 上図の2重位相差検出を用いた方式。
- 高周波部品を使うことなく光基準に同期した光発振器を実現可能。マイクロ波からテラヘルツ波領域までの応用が可能。
論文情報
[1] H.Kiuchi, “Phase comparison method for wide-frequency-range microwave photonic signals,” J. of Lightwave Technol., Vol.35, No.17, pp.3643-3649, Spt. 2017.
[2] H.Kiuchi, “Wide-frequency-range phase-locked Photonic-Microwave oscillator operated in a fiber-coupled remote station,” J. of Lightwave Technol., Vol.37,No.10, pp.2172-2177, May 2019.
関連する特許出願番号・特許番号
特許番号 :特許第6130527号
米国特許番号:US9991959
発明の名称 :光信号の周波数差を比較する方法ならびに光信号の位相を同期させる方法および装置