補償光学系の多用途応用のための研究開発と生物顕微鏡への応用
研究キーワード
補償光学 , 顕微鏡 , 収差補正 , 波面補正 , 波面センサー
研究概要
補償光学装置は、光赤外領波長域での地上望遠鏡による天体観測において、大気揺らぎに起因した収差による像劣化を防ぎ、大口径の地上望遠鏡で集めた光線を正確に一点へ収束させることで、感度と分解能の同時向上を実現しています。補償光学について、近年は機器の市販もあり、研究のシーズとして天文以外の応用も進んでいます。その一方で、しばしば、市販品を組み合わせて構成しても動作が安定せず、像の補正が不十分なことがあります。本研究では、基礎生物学研究所での生物の顕微鏡観察に対して、安定で像補正が良く効く[1]補償光学系を、国立天文台すばる望遠鏡のレーザーガイド星補償光学系の研究開発グループが検討しました。上空の大気を通して無限の彼方を見る天体望遠鏡と異なり、生物用顕微鏡では微小な生物試料から発する光線に対し、観察部分に近接した組織に由来する収差を補正するため、補償光学の安定動作には難しい条件となります[2]。その克服において、特許[4]の系の構成[3]がシーズのひとつになりました。部品に市販品を用いながらも、従来と比べて大幅に安定した動作を実現し、さらに、光変調器や波面センサーなどの性能を最大に活かして良好な像改善を実現しています[1][2][3]。天文用と同じ波面センサー式の構成により時間応答に優れています。生物観察用の顕微鏡系を試作し、観察対象の拡大や性能の評価を進めています[1]。
特許[4]の光学系は、一般的な補償光学系の構成からの改良であり、部品や構成などに特殊な制約が少なくなっています。このため系の構成の自由度が高く、様々な応用についての実験的な検討を行うことにも適しています。実験系はその特色を活かした汎用の補償光学ベンチ[2]として設計されています。波面センサーや変調器などの基本要素の検討に始まり、顕微鏡を含めた種々の応用に関する実験的な検討に至るまで、補償光学応用機器の総合的な研究開発のシーズとして、開発された実験系の利用が期待できます。
想定される応用先・連携先
光学顕微鏡、また、既存の補償光学応用装置の安定性や像特性の改善の可能性、さらに、動的なものを含む光学装置の収差全般に関し、補償光学の応用による性能改善の可能性があります。具体的にはレーザー応用装置、加工・測定装置、カメラ、医療・診断装置、眼底カメラ、通信装置、望遠鏡などが挙げられます。また、それら種々の補償光学応用について、実験系を用いた原理実験や評価実験などの研究開発の可能性も考えられます。
アピールポイント
ゆらぎの下でもくっきりした光学像を得るための補償光学による収差補正を、新たな研究のシーズとして、応用の可能性を天体望遠鏡以外にも広げる研究です。顕微鏡のみならず各種光学機器への応用について、ご興味を持たれた方のご連絡をお待ち致します。
論文情報
[1] (生物観察) Y. Tamada and M. Hattori, “Adaptive optics microscopy for fine imaging of live plant cells”, SPIE Newsroom. DOI: 10.1117/2.1201602.006335 (2016).
[2] (動作実験) M. Hattori, Y. Tamada, T. Murata, S. Oya, M. Hasebe, Y. Hayano, and Y. Kamei “Artificial testing targets with controllable blur for adaptive optics microscopes” Optical Engineering, 56: 080502 (2017)
[3] (光学系構成) M. Hattori, "A Test Bench of General Purpose Adaptive Optics and its Application to Microscopy”, Biomedical Imaging and Sensing Conference (BISC/OPIC), Yokohama (2016)
関連する特許出願番号・特許番号
特許番号 :特許第6394850号、US10254538
国際出願番号:PCT/JP2014/074837
発明の名称 :補償光学系及び光学装置