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2022年度 研究シーズ

所望の周波数を高周波数分解能で発生する光シンセサイザ

国立天文台・特任教授 木内 等

研究キーワード

光シンセサイザ , 広周波数 , 高周波数分解能 , マイクロ波フォトニクス

研究概要

マイクロ波光技術を用い、共通のレーザを光源とするマッハツェンダ型光変調器と光コム発生器の出力の1光波ずつを合成することでコヒーレントな2光波信号の差として、低周波数からテラヘルツ領域までの所望の周波数を高周波数分解能で発生する光シンセサイザが可能となります。
テラヘルツ領域まで含めた高周波信号発生は、高周波数化が進む先端技術分野で不可欠なものになっています。測定器としてのマイクロ波シンセサイザは、高周波数分解能で所望の周波数信号を発生します。しかしながら、電気的な信号発生には逓倍等を用いる必要があり、不要波の発生や費用の点で高周波になればなるほど難しくなります。電気信号(マイクロ波・ミリ波等)は、2つのコヒーレントな光信号の差として発生後に光検出器(フォトミキサ)を用いて光・電気変換をすることにより発生することもできます。近年フォトミキサの周波数帯域はテラヘルツ領域に達し、入手も容易になってきました。フォトニック技術を用い、共通レーザを光源とするフルバイアスモード動作のマッハツェンダ型光変調器と光コム発生器の1光波ずつを合成することでコヒーレントな2光波信号の差としてとりだし、低周波数からテラヘルツ領域までの所望の周波数を高周波数分解能でシームレスに発生する光シンセサイザが可能となります。

第1図:ブロック図

レーザ光(図中Oと表示)は分配され、ひとつは光変調器に入力、もう一方は光コム発生器に入力されます。光変調器には、基準信号に位相同期したシンセサイザ信号(fm)で駆動されるマッハツェンダ型光変調器を用いることが可能です。光変調器出力は通常変調された信号2波であり、その差周波数は変調周波数の2倍(第1変調波aとa’:ヌルバイアス動作)、4倍(第2変調波AとA’:フルバイアス動作)となっています。ヌルバイアス動作では、OとAとA’は抑圧されます。一方フルバイアス動作では、aとa’が抑圧されます。本発明では、入力レーザ光(図中Oと表示)ではない変調波のひとつを抽出します。1mHzの周波数分解のシンセサイザを用いた場合、光信号Oに対して2mHzの周波数分解能を持ちます。光変調器は高周波数分解能の信号発生能力を持ちます。
もう一方の共通レーザ光は光コム発生器(基準信号に位相同期した周波数固定マイクロ波信号fcombで駆動)に入力され、光コム信号を発生します。光コムの後段の狭帯域光フィルタで光コム信号の1信号(B信号のうちのどれか)を抽出します。本実施例では、fcombを25GHzとして例を示します。この場合は、光信号の持つダイナミックレンジは光信号Oに対して数THz以上が得られます。光コム発生器は高ダイナミックレンジの信号発生能力を持ちます。
光信号Oは共通であるため、光信号Aと光信号Bの差として、低周波からテラヘルツ領域までシームレスに信号発生が可能となります。2つの光の周波数差はフォトミキサで電気信号として出力されます。両光信号発生技術は高安定なため、光信号の不安定性を考慮しても1Hzの周波数分解能で低周波からTHz以上まで発生可能です。

第2図:光信号の周波数関係

想定される応用先・連携先

汎用測定器、高周波天文学、超高速光通信分野への応用、およびマイクロ波からテラヘルツ波を使用する分野への応用が可能です。

アピールポイント

本装置の特徴は、以下の通りです。

  1. 共通レーザ光を光源とし、基準信号に位相同期した周波数可変高周波数分解能マイクロ波信号で駆動される光変調器と基準信号に位相同期した周波数固定マイクロ波信号で駆動される光コム発生器のそれぞれの光信号の1波を抽出し合成する構造。
  2. 低周波からテラヘルツ領域までの広い周波数領域をシームレスにカバーし、任意周波数信号を高い周波数分解能で発生可能なシンセサイザ。
  3. 高周波数分解能を光変調器で実現、周波数ダイナミックレンジを光コム発生器で実現する構造を持つ。
  4. 位相同期ループを用いないので位相同期外れがない。
  5. 低周波からテラヘルツまでの広範囲にわたり2mHz程度の周波数分解能が得られる(1mHz分解能シンセサイザ使用時)。
  6. マッハツェンダ型光変調器のフルバイアス動作信号を用いることで、光コム周波数間隔以上の広帯域で高周波数分解能光信号を実現。
  7. 電気信号のような逓倍技術を用いないのでスプリアスが少ない。

論文情報

[1] H.Kiuchi, T.Kawanishi, A.Kanno, “A wide frequency range optical synthesizer with high-frequency resolution,” IEEE Photonics Technology Letters, Vol. 29, No. 1, pp.78-81. Jan 2017.

[2] H.Kiuchi, T.Kawanishi, M.Yamada, T.Sakamoto, M.Tsuchiya, J.Amagai, M.Izutsu, “High extinction ratio Mach-Zehnder modulator applied to a highly stable optical signal generator”, IEEE Trans. Microwave Theory Tech., Vol.55, No.9, pp.1964-1972, Sep. 2007.

関連する特許出願番号・特許番号

米国特許番号:US9935717
発明の名称 :OPTICAL SYNTHESIZER

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