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2022年度 研究シーズ

4μm帯中赤外パルスレーザーの開発

核融合科学研究所・助教 上原 日和

研究キーワード

中赤外レーザー , レーザー加工 , ガスセンシング

研究概要

大阪大学レーザー科学研究所と共同で、波長4μmにおいて高ピーク出力かつ高繰り返しな固体レーザーの開発に成功しました。Fe2+:ZnSeレーザーは、波長4~5μmに極めて広帯域かつ高い利得を有するため、次世代高出力中赤外レーザーの有力候補のひとつです。しかし、3μm帯の励起光源が希少なことが、これまで高出力化の障壁となっていました。開発者らは、これまでに、独自開発した波長2.8μmフッ化物ファイバーレーザーを励起光源としたFe:ZnSeレーザーを世界で初めて実証し、波長4.1μmにおいて世界最高効率での連続波発振(出力2W)に成功しています。また、3.8~5.1μmの範囲で波長可変なレーザー発振器を実証しました。本研究では、レーザー加工光源応用を視野に入れ、ファイバーレーザー励起Fe:ZnSeレーザーのQスイッチングによる高ピーク出力化を試みました。図1に作製した能動QスイッチFe:ZnSeレーザーの概略図を示します。Qスイッチ素子には、高速変調可能な音響光学変調器(AOM)を用いました。発振効率を高めるために、Fe:ZnSe単結晶を独自開発したクライオスタットを用いて液体窒素冷却しています。このFe:ZnSeレーザーのQスイッチパルス動作を試みた結果、波長4.0μmにおいて、繰り返し周波数5~40kHz、平均出力0.6Wのパルスレーザーが安定的に発振しました。パルス幅20ns、パルスエネルギー 22μJ、ピーク出力は1.1kWに達し、これはQスイッチFe:ZnSeレーザーで報告されている最短パルス幅、並びに最高出力です。これまで報告されていたQスイッチおよびゲインスイッチFe:ZnSeレーザーはいずれも繰り返し周波数が低い(<1kHz)ことが課題でしたが、連続波の中赤外ファイバーレーザーを励起光源として用いることで、高い繰り返し周波数を初めて実現しました。

図1: QスイッチFe:ZnSeレーザーの概略図

想定される応用先・連携先

波長3~5μmの中赤外領域は、大気吸収による光損失が比較的小さく、CO基やCH基の吸収線が存在するため、この波長の高出力レーザーが実現すると、加工や微量ガスのセンシングなど多岐にわたる応用が期待できます。
本レーザー発振器は、1.1kWのピーク出力を40kHzという高繰り返しで可能にしており、レーザー加工用途への応用が特に期待できます。波長4.1μmと4.6μmには、それぞれCO₂とCOの吸収線が存在しており、さらに、炭酸ガスや炭化水素の炭素同位体解析、水の水素同位体解析などセンシング用途における優位性が期待できます。

アピールポイント

このレーザー発振器の特筆すべき点は、キロワット級の高出力パルスを40kHzもの高繰り返しで出力可能なことです。これまで報告されていたQスイッチおよびゲインスイッチFe:ZnSeレーザーはいずれも繰り返し周波数が低い(<1kHz)ことが課題でしたが、連続波の高出力中赤外レーザーを励起光源として用いることで、高い繰り返し周波数を初めて実現しました。今後は種々の透明材料を対象にした加工検証を予定しています。
また、回折格子を用いた波長チューニング実験では、波長範囲3.8~5.1μmにわたって連続的な波長可変性を実証しています。スペクトル線幅は約2nmであり、ガス分子やその同位体の気相・液相・固相いずれの検出にも適した光源です。

論文情報

[1]Hiyori Uehara, Takanori Tsunai, Bingyu Han, Kenji Goya, Ryo Yasuhara, Fedor Potemkin, Junji Kawanaka, and Shigeki Tokita, “40 kHz, 20 ns acoustooptically Q-switched 4 μm Fe:ZnSe laser pumped by a fluoride fiber laser,” Optics Letters 45(10), 2788-2791 (2020).
[2] Hiyori Uehara, Daisuke Konishi, Kenji Goya, Ryo Sahara, Masanao Murakami, and Shigeki Tokita, “Power scalable 30-W mid-infrared fluoride fiber amplifier,” Optics Letters 44(19), 4777-4780 (2019).
[3] A. V. Pushkin, E. A. Migal, H. Uehara, K. Goya, S. Tokita, F. V. Potemkin et al., “Compact highly efficient 2.1-W continuous-wave mid-IR Fe:ZnSe coherent source pumped by Er:ZBLAN fiber laser,” Optics Letters 43(24), 5941-5944 (2018).

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