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2022年度 研究シーズ

小型で安価な広帯域中赤外ファイバー ASE光源

核融合科学研究所・助教 上原 日和

研究キーワード

中赤外分光 , 光ファイバーセンサー , ガスセンサー , 広帯域ASE光源

研究概要

本発明では、波長2.5 ~ 3.7μmで出力可能な広帯域自然放出増幅(ASE)光源を、小型かつ安価な構成にて提供します。
本研究において開発者は、エルビウムとジスプロシウムをコア材に共添加した、ダブルクラッド型フッ化物ガラス光ファイバーを新たに開発しました。適した共添加濃度下において、エルビウムからジスプロシウムへのエネルギー移動が効率的に誘起されることを明らかにし、従来は困難であった波長976nm半導体レーザー(LD)励起によるジスプロシウムの中赤外発光を観測することに成功しました。
今回、開発者は、この光ファイバーを利得媒質利用したLD励起のASE光源を構築しました(図1)。最適化した長さ0.5mのダブルクラッドZBLANファイバーを、安価でマルチ横モードの976nmLDを用いて第一クラッド層励起しており、極めてシンプルかつコンパクトな装置構成となっています。近年、LD等の低価格化が進んでおり、本ASE光源をパッケージ化した場合、原価わずか20~30万円程度で作製可能と見込まれます。
図2に、作製したASE光源のスペクトルを示す。波長2.5 ~ 3.7μmに亘る極めて広帯域なASE出力が得られました。出力は最大で3mWであり、中赤外波長であることを考慮すると、十分に高輝度といえます。ビーム品質の指標となるMは1.1~1.3と良好であり、高効率なシングルモードファイバー結合が可能です。

図1:開発した中赤外ASE光源の概略図
図2:中赤外ASE光源のスペクトル

想定される応用先・連携先

ASE光源の特長として、波長当たりの輝度が高く、出力・スペクトル安定性に優れていることが挙げられます。そのため、分子構造解析など学術研究のほか、光学素子の評価、ガスセンシング等の分光計測用途に適しています。さらに、ビーム品質が高く、シングルモード光ファイバーとの結合が容易なことから、ファイバー・ブラッグ・グレーティングを利用した各種光センサーや、光通信、並びに今後普及が予想される光ファイバーセンサー用光源として極めて優位性が高いと考えられます。近年では、可視域や近赤外域の通信波長帯に加えて、ツリウムを利得元素に用いた波長2μm帯のASE光源が上市されており、今後、中赤外デバイス技術の発展に伴って、潜在用途の豊富な>3μm帯においてもASE光源の需要が高まることが期待されます。

アピールポイント

本提案のASE光源の性能上での主要なアピールポイントは、①センシングに重要な波長帯において従来になく広帯域であること、②出力・スペクトルが安定していてビーム品質も高いこと、③小型でシンプルな装置構成となっており安価で作製可能なことです。
ビーム品質に優れた代表的な中赤外広帯域光源として、ASE光源のほかにも、スーパーコンティニウム(SC)光源が挙げられます。しかし、この光源は非線形光学効果を利用するため出力やスペクトル安定性がASE光源よりも低く、センシングには不向きです。また、システムが大型で複雑であり、波長2.5μmよりも長波長のSC光源の市場価格は、500~1000万円と極めて高価です。
2μmよりも長波長のファイバー ASE光源は、エルビウム系のLD励起フッ化物ファイバーレーザーの発振に伴って波長2.7~2.8μmにおいて報告されています。しかしながら、この波長帯には、大気中の水分子の吸収線が多数存在しており、大気による減衰が著しくセンシング光源には不向きです。
一方、本ASE光源で出力可能な波長3~4μmは、大気中の減衰が比較的小さな「窓」に該当し、炭化水素(メタンなど)、窒素酸化物、アンモニア、ホルムアルデヒド等のガス分子の共鳴線が存在する、極めて重要な波長帯です。本発明では、ジスプロシウムの持つ広帯域な発光特性を維持したまま、高度な励起テクニックが要求されるジスプロシウム系の欠点を克服しており、いかなる既存の中赤外広帯域光源よりも優位性の高い革新的なASE光源を実現しました。

論文情報

[1] Kenji Goya, Akira Mori, Shigeki Tokita, Ryo Yasuhara, Tetsuo Kishi, Yoshiaki Nishijima, Setsuhisa Tanabe, and Hiyori Uehara, "Broadband mid_infrared amplified spontaneous emission from Er/Dy co_doped fluoride fiber with a simple diode_pumped configuration," Scientific Reports 11, 5432 (2021).

[2] Hiyori Uehara, Weichao Yao, Akio Ikesue, Hiroyuki Noto, Hengjun Chen, Yoshimitsu Hishinuma, Takeo Muroga, and Ryo Yasuhara, “Dy-doped CaF2 transparent ceramics as a functional medium in the broadband mid-infrared spectral region,” OSA Continuum 3(7), 1811-1818 (2020).

関連する特許出願番号・特許番号

出願番号 :特願2020-208308
発明の名称:光ファイバおよびASE光源

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