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2023年度 研究シーズ

温度感受性TRPチャネルを標的とした薬剤開発

生命創成探究センター・生理研・教授 富永 真琴

研究キーワード

温度 , TRPチャネル , アノクタミン1チャネル , 刺激剤、阻害剤 , 痛み、痒み、唾液・涙分泌、発汗、創傷治癒

研究概要

2021年のノーベル生理学・医学賞の対象の一つはDavid Juliusによる「温度の受容体の発見」であり、カプサイシン受容体TRPV1とメントール受容体TRPM8が対象分子です。現在までに、ヒトでは27のTRPチャネルのうち11に温度感受性があることが分かっています。生命創成探究センター温度生物学研究グループでは、この温度感受性TRPチャネルの研究をしています。その機能制御薬は温感制御につながるわけですが、感覚神経に発現するTRPV1, TRPA1は痛みと痒みに、表皮ケラチノサイトに発現するTRPV3,TRPV4は痒みに関わることが明らかになっており、その阻害薬は鎮痛薬、鎮痒薬になります。また、温度生物学研究グループは、TRPV1, TRPA1とアノクタミン1チャネルの機能連関が痛みや痒みの増強に、TRPV4とアノクタミン1チャネルの機能連関が唾液・涙分泌や発汗に、TRPV3とアノクタミン1チャネルの機能連関が創傷治癒に関わることを明らかにしており、アノクタミン1チャネルそのものやアノクタミン1チャネルとTRPチャネルの機能連関を制御することで、痛みや痒みの軽減、創傷治癒の促進、昨今問題となっているドライマウスやドライアイの軽減、発汗の制御につながるものと期待されます。

想定される応用先・連携先

製薬会社、化粧品会社等
あるいは、化学メーカーでもいいかもしれません

アピールポイント

温度生物学グループは、温度感受性TRPチャネルがさまざまな生理機能に関わることを報告してきています。特に、皮膚に投与する薬剤(クリーム等)は全身投与に比較して開発が容易だと思います。しかし、カプサイシン受容体TRPV1の遺伝子クローニングから26年経っても、未だ温度感受性TRPチャネルを標的とした薬剤は上市されていません。開発が難しいからですが、温度生物学グループは、温度感受性TRPチャネルとアノクタミンチャネルの機能連関がさまざな生理機能に関わることを見いだし、この機能連関が新たな薬剤開発の標的となることを示しました。

論文情報

・TRPチャネルが痒みに関わることを示したもの
1.Kittaka H, Tominaga M. The molecular and cellular mechanisms of itch and the involvement of TRP channels in the peripheral sensory nervous system and skin. Allergol. Int. 66 (1): 22-30, 2017.(総説)

2.Kittaka H, Yamanoi Y, Tominaga M. Transient receptor potential vanilloid 4 (TRPV4) channel as a target of crotamiton and its bimodal effects. Pflüger Archiv.Eur. J. Physiol. 469: 1313-1323, 2017.

・TRPチャネルとアノクタミン1チャネルの機能連関
1.Derouiche S, Takayama Y, Murakami M, Tominaga M. TRPV4 heats ups ANO1-dependent exocrine gland fluid secretion. FASEB J. 32 (4): 1841-1854, 2018.

2.Takayama Y, Uta D, Furue H, Tominaga M. Pain-enhancing mechanism through interaction between TRPV1 and anoctamin 1 in sensory neurons. Proc. Natl.Acad. Sci. USA 112(6): 5213-5218, 2015.

3.Yamanoi Y, Lei J, Takayama Y, Hosogi S, Marunaka Y, Tominaga M. TRPV3-ANO1 interaction positively regulates wound healing in keratinocytes. Comms.Biol. 6: 88, 2023.

・皮膚が温度を感知していることの証明
1.Lei J, Yoshimoto RU, Matsui T, Amagai M, Kido M, Tomiknaga M. Involvement of skin TRPV3 in temperature detection regulated by TMEM79 in mice. Nature Communications(14, 4104, 2023)

・TRPV1, TRPV4, anoctamin1をともに阻害する新たな薬剤として4イソプロピルサイクロヘキサノールを同定
1.Takayama Y, Furue H, Tominaga M. 4-isopropylcyclohexanol has potential analgesic effects through the inhibition of anoctamin 1, TRPV1 and TRPA1 channel activities. Sci. Rep. 7: 43132, 2017.

関連する特許出願番号・特許番号

特許番号:特許6954602号
発明の名称:活性抑制剤および皮膚感覚過敏抑制剤

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