病は気から: ストレスによる病気の治療薬とバイオマーカーの開発
研究キーワード
多発性硬化症 , ストレス , IL-6アンプ , ゲートウェイ反射 , 血液関門
研究概要
ストレスは、現代社会においてあらゆる病気の要因となるものです。私たちは、ストレス誘発性の疾患モデルを樹立することにより、当該疾患の予測・予防・治療法の開発に資する基礎研究を行っています(図1)。慢性ストレスを加えたマウスに、中枢神経系に存在する自己抗原に反応するTリンパ球を移入すると、①ストレス負荷に応答して室傍核とよばれる交感神経が活性化し、続いて②第3脳室、視床、海馬の境界部に存在する特定の血管でケモカインという細胞遊走に関与するタンパク質が産生され、血液中の自己反応性免疫細胞が血液脳関門を超えてこの血管領域に集まることで微小炎症 (IL-6アンプ)が誘導され、ATPの放出を介して本来は活動していない胃腸に接続されている神経回路が異常活性化する(③④)。これが契機となって、胃・十二指腸を含む上部消化管での炎症が誘発され、血中のカリウムイオンの上昇による心機能不全から突然死が誘発される(⑤)一連の分子機序を明らかにしました。これまで、ストレス分子機構の解明に有用な動物モデルは樹立されていなかったことから、当モデルはストレス関連性疾患の新たな薬剤のスクリーニング、診断薬・治療薬の開発に役立つと考えられます。実際に、私たちは、既にこのモデルを用いて脳内の特定血管でストレスに依存して発現が上昇する分子群 (C2CD4D、VSTM2L、VSTM2A、TMEM5、LY6G6C、ADRA2C)を同定し(図2)、それら分子に対する中和抗体が突然死を抑制することを明らかにしました(図3)。本研究によって、「脳の特定血管で生じる微小炎症が、新たな神経回路の活性化を誘導して末梢臓器の機能障害を引き起こす」ことが明らかとなり、私たちはこの現象をストレスゲートウェイ反射と名付けました。このモデルは、過労や不眠による突然死など、社会的に広く問題となっている慢性的なストレスに起因する病気の治療標的の探索に有用です。
想定される応用先・連携先
ストレスに関連する病気 ( 進行型多発性硬化症, 炎症性腸疾患, 消化性潰瘍, クローン病, 潰瘍性大腸炎, 狭心症, 心筋梗塞, 不整脈,心筋症, 心不全、認知症など脳内微小炎症を伴う疾患など)に対する既存薬剤のスクリーニング、診断・創薬標的の探索を介して新規のバイオマーカーや治療薬の開発など社会実装への可能性が考えられます。
アピールポイント
これまで進行型多発性硬化症など、ストレスが関与する疾患に対して奏効を示す効果的な薬剤の開発は十分になされていません。私達は独自に樹立した当モデルを用いて、既にストレス依存的に脳内で増える機能が未知の分子を見つけ出し、中和抗体投与による非臨床試験で疾患が寛解になることを明らかにしています。本研究成果は、今後様々なストレス性疾患に対する信頼性の高いバイオマーカーや治療標的候補の同定に寄与し、ストレス関連疾患の予防・治療戦略に貢献すると考えられます。
論文情報
- Arima Y, Ohki T, Nishikawa N, Higuchi K, Ota M, Tanaka Y, Nio-Kobayashi J, Elfeky M, Sakai R, Mori Y, Kawamoto T, Stofkova A, Sakashita Y, Morimoto Y,Kuwatani M, Iwanaga T, Yoshioka Y, Sakamoto N, Yoshimura A, Takiguchi M, Sakoda S, Prinz M, Kamimura D, Murakami M. Brain micro-inflammation at specific vessels dysregulates organ-homeostasis via the activation of a new neural circuit. Elife. 6:e25517, 2017
- Arima Y, Harada M, Kamimura D, Park JH, Kawano F, Yull FE, Kawamoto T, Iwakura Y, Betz UA, Márquez G, Blackwell TS, Ohira Y, Hirano T, Murakami M.Regional neural activation defines a gateway for autoreactive T cells to cross the blood-brain barrier. Cell. 148(3):447-457, 2012
- Ogura H, Murakami M, Okuyama Y, Tsuruoka M, Kitabayashi C, Kanamoto M, Nishihara M, Iwakura Y, Hirano T. Interleukin-17 promotes autoimmunity by triggering a positive-feedback loop via interleukin-6 induction. Immunity. 29(4):628-636, 2008
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