高安定基準信号光伝送方法
研究キーワード
光マイクロ波信号 , 原子時計安定度 , テラヘルツ , 長距離光ファイバ伝送
研究概要
原子時計の安定度を持った低周波からテラヘルツ波領域の高安定周波数信号の光ファイバによる長距離伝送を可能とする技術です。
マイクロ波フォトニックス技術を用いる本研究では、超広域における原子周波数標準精度での高安定周波数信号配信手段を提供するため、ファイバ結合されたリモート局での信号純度をAllan偏差で位相安定度10-13(1秒)以上を実現します。
伝送したい高安定な電気信号は、光変調器でコヒーレントな光の2波に変換することができます。光ファイバ伝送では、伝送波長による波長分散が生じ、2つの光信号の遅延量が異なるという問題が発生します。2光波で独立に同一ファイバ内往復伝送位相量を測定し、その位相差をゼロにすることで波長分散補償を行い、位相安定な周波数長距離伝送が可能です。
同一ファイバ内往復伝送による位相測定方法2種(高周波用(20GHz 〜 THz以上):第1図、低周波用(〜 40GHz):第2図)を開発しました。ファイバで伝送されるマイクロ波信号は第1図の光信号λ1とλ2の差として伝送され、伝送先で僅かに周波数シフトされ、戻りの信号λ3とλ4となります。
高周波の場合A-B=a-bであるため、光のフィルタ分離で容易にaとbを取り出せ、a-bから往復位相差を測定することができます。低周波の場合は、AとBを電気信号としてcとdとして取り出し、送信元の周波数Aで周波数変換し上下側波帯に分離することで往復位相差を測定することができます。いずれの場合も、検出された2信号位相の差が伝送路によって生じたもので、2信号位相を同一位相に制御することで伝送信号を安定に伝送することができます。さらにこの手法を用いると、実時間でも後処理でも波長分散補償が可能であり、高周波用では伝送周波数の上限の制限は原理的にありません。最新結果では700GHzまでの高位相安定信号(原子周波数標準相当の安定度)の10km伝送を実現しています。
想定される応用先・連携先
本研究では、広域における原子時計精度の高安定周波数信号と高精度時刻信号の配信手段を提供します。高安定周波数の配信は、近代の高精度測定手法の最も基本的な要素でもあり、これらにより広域高精度コヒーレント系を構築することが可能となるため、その波及効果は計り知れません。天文学、加速器を用いた高エネルギー物理学など高精度な観測を要する基礎科学分野はもとより、第6世代(6G)通信等の超高速通信分野などでのエリア間の精密同期などに大きな貢献が期待されます。
アピールポイント
伝送したい高安定な電気信号をコヒーレントな光の2波の差として光ファイバで伝送します。
2光波で独立に同一ファイバ内往復伝送位相量を測定し、その位相差をゼロにすることで波長分散補償を行い、位相安定な周波数長距離伝送が可能です。
実時間でも後処理でも波長分散補償が可能であり、低周波から高周波まで対応可能です。
論文情報
[1] H.Kiuchi, “Postprocessing phase stabilizer for wide frequency range photonic-microwave signal distribution,” IEEE Trans. Terahertz Sci. and Technol., Vol.7, No.2, pp.177-183, Mar. 2017.
[2] H.Kiuchi, “Optical transmission signal phase compensation method using an image rejection mixer,” IEEE Photonics Journal, Vol.3, No.1, pp.89-99, Feb., 2011.
[3] H.Kiuchi, “Highly stable millimeter-wave signal distribution with an optical round-trip phase stabilizer”, IEEE Trans. Microwave Theory Tech., Vol.56, No.6, pp.1493-1500, Jun. 2008.
関連する特許出願番号・特許番号
特許番号 :特許第4599560号
発明の名称 :基準信号光伝送システム及び基準信号光伝送方法特許番号 :特許第4849683号
発明の名称 :高周波信号光伝送システム及び高周波信号光伝送方法特許番号 :特許第4801194号
米国特許番号:US8145065
発明の名称 :低周波信号光伝送システム及び低周波信号光伝送方法特許番号 :特許第5291143号
米国特許番号:US8582977
発明の名称 :光伝送システム及び光伝送方法