様々な成分分析に利用可能な赤外光ファイバーセンサー
研究キーワード
ガスセンサー , 光ファイバーセンサー , リモートセンシング , 環境モニタリング , 呼気診断
研究概要
本研究では、様々な成分分析に利用可能で、高速・高感度な赤外光ファイバーセンサーの開発に成功しました。このセンサーを利用することで、環境モニタリング、医療分野での呼気診断、工場や各家庭における微量ガス・危険物検知など、幅広い応用が期待されます。
一般的な分子は赤外線を吸収する性質を持ち、それらが吸収する光の波長は分子の種類によって異なります。特に、中赤外波長には、炭酸ガス、炭化水素、水蒸気などの様々な分子の吸収波長が存在するため、中赤外線を用いることで、高速で高感度な成分分析が可能になります。
このような背景から、核融合科学研究所と秋田県立大学の研究グループは、中赤外線と光ファイバーを利用した「赤外光ファイバーセンサー」の開発を進めています。本研究では、フッ化物ガラス光ファイバーと呼ばれる特殊な光ファイバーを光導波路とした赤外光ファイバーセンサーの開発に世界で初めて成功しました。フッ化物ファイバーでは、広い波長範囲(波長~ 5マイクロメートル)の中赤外線を効率よく伝送させることができます。研究グループは、フッ化物ファイバー導波路の途中に外界と干渉させる構造(センサー部)を作りこむことで、センサー部に触れた液体や気体の検出が可能な光ファイバーセンサーを実証しました(図参照)。また、実際に計測実験を行い、液体サンプルとして純水とグリセリンを、気体サンプルとしてメタンガスを計測したところ、各サンプルの赤外吸収スペクトルを取得し、本技術の実現性を確認しました。本研究では、中赤外光源についても独自に開発した技術を用いています(シーズ集「小型で安価な広帯域中赤外ファイバー ASE光源」参照)。
想定される応用先・連携先
本技術は、様々な分子の検出に対応した、高速・高感度で遠隔性の高いセンシングを小型・低コストで実現します。
例えば、工場施設において、本光ファイバーセンサーを施設内外に張り巡らせることで、窒素酸化物、硫黄酸化物、炭酸ガス等の温室効果ガスを監視することができます。将来の核融合発電所では、温室効果ガスは発生しませんが、水蒸気や炭化水素などの測定に利用されます。私たちに身近なところでは、微量なメタン及びブタンを検知するガス漏れ検知器、シックハウス症候群の原因であるホルムアルデヒドの測定への応用も期待できます。さらに、医療分野では、呼気診断に応用されれば、呼気中の一酸化窒素濃度を即時に測定できようになり、コロナ患者の重症化リスクの迅速な判断が可能になります。
近年では、IoT(モノのインターネット)技術の重要性が認知され、一般的に受け入れられるようになりました。その要素技術として、センサーの高度多様化は、将来のIoT技術の進歩に大きく貢献することが期待できます。特に光ファイバーセンサーの特徴は、敷設が容易であり、伝送路の信頼性、使用環境における安全性といった優位性を持つことから、様々な環境への応用展開を目指します。
アピールポイント
赤外吸収分光を利用した成分検出は、微量分子の存在を直接的に観測するため、最も高感度で高速なセンシング手法といえます。一般的に普及している石英ガラスから成る光ファイバーは、赤外波長における材料吸収が大きく、赤外吸収分光に使うことができません。また、中空構造の光ファイバーを使った赤外吸収センシングが実用化されていますが、ファイバーを曲げたり、ファイバーを長くすると伝送損失が大きくなるため、遠隔でのモニタリングには不向きです。一方、本技術で使用するフッ化物ガラス光ファイバーは、波長~ 5 μmの領域における光損失が極めて小さく、センサーデバイスの長尺化を低コストで可能にします。
また、著者らの発明した中赤外ASE光源は、赤外光ファイバーセンシングに特化した光源であり、本技術で使用するフッ化物ファイバーセンサーとの親和性が極めて高いことも利点の一つです。
今後は、検出感度の向上を図り、多くのガス種でのセンシングを実証する予定で、本技術に関する産学共同研究先を募集しております。
論文情報
- K. Goya, Y. Koyama, Y. Nishijima, S. Tokita, R. Yasuhara, and H. Uehara, “A fluoride fiber optics in-line sensor for mid-IR spectroscopy based on a sidepolished structure,” Sensors and Actuators: B. Chemical 351, 130904 (2022).
- K. Goya, A. Mori, S. Tokita, R. Yasuhara, T. Kishi, Y. Nishijima, S. Tanabe, and H. Uehara, “Broadband mid‑infrared amplified spontaneous emission from Er/Dyco‑doped fluoride fiber with a simple diode‑pumped configuration,” Scientific Reports 11, 5432 (2021).
関連する特許出願番号・特許番号
出願番号:特願2021-069885
発明の名称:光ファイバーおよびファイバーセンサ出願番号:特願2022-019461
発明の名称:光ファイバーおよび光ファイバーの製造方法出願番号:特願2020-208308
発明の名称:光ファイバおよびASE光源出願番号:特願2023-055198
発明の名称:ガス分析装置およびガス分析方法