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2024年度 研究シーズ

極低温冷却システムの高効率化に関する研究開発

核融合科学研究所・教授 平野 直樹

研究キーワード

極低温冷却システム , 高効率化 , 蓄冷式冷凍機 , 熱交換器 , コスト低減

研究概要

超伝導コイルの産業応用を考えた場合、超伝導コイルを極低温状態に維持するため、常時冷凍機により冷却する必要があります。この冷却にかかるコストが、超伝導応用機器のランニングコストに与える影響は非常に大きく、超伝導技術を社会実装する上で大きな障壁となっています。例えば、自動車部品や建築材料などに多くのアルミニウムが使われていますが、アルミニウムの成型加工を行うためには、金属加熱で主に用いられている高周波誘導加熱方式では効率よく加熱することができません。これに対し、超伝導技術を活用したアルミ押出加工用のアルミビレット加熱装置(1)の開発が進められています。超伝導コイルの冷却に必要な消費電力を削減し、ランニングコストの低減を図ることが喫緊の課題となっています。産業分野への超伝導機器実用化の拡大のためにも、極低温冷凍システムの高効率化に取り組むものです。
本研究は、蒸気圧縮式冷凍機の冷媒と蓄冷式冷凍機の作動流体とを熱交換させる熱交換器の効果を最大限に活かすことが可能となる熱交換器を試作し、図2に示す冷却水と作動流体ガスとの熱交換性能を測定する実験装置を製作し、熱交換器の出入口温度や圧力損失の実測を行なうものです。
高効率極低温冷凍機開発の初期研究として、中間温度での熱交換を可能とする熱交換構造の最適化を図ることを目指します。熱交換器を試作し、熱交換器の温度変換効率が90%以上で圧力損失が0.1MPa以下あることを検証することが目標です。試作する熱交換体に対して、熱交換流体の出入口温度や流体の圧力損失を、簡易実験装置により計測・評価します。
今後の計画としては、JSTNEDO等の外部資金を獲得し、5年以内に開発が進められているアルミビレット加熱装置の超伝導コイル冷却用極低温システムとして社会実証を図ることを考えています。

図1 超伝導アルミ加熱装置概略図
図2 熱交換性能簡易評価試験装置概略図

想定される応用先・連携先

開発が進められているアルミビレット加熱装置の超伝導コイル冷却用極低温システムとして社会実証を図ることを考えています。この開発を行っているテラル株式会社とは、共同研究を締結してシステム開発を行う予定です。加えて、高温超伝導コイルを用いたMRIや半導体引き上げ装置などの産業応用や、電力貯蔵装置用、さらには液体水素のボイルオフガスの再液化システムへの適用など、幅広い用途への適用先が考えられます。

アピールポイント

中間温度を設けて蓄冷式冷凍機の排熱を積極的に行い、蓄冷式冷凍機の効率を上げます。中間温度を作るため、-100℃以下まで冷却可能な蒸気圧縮式冷凍機で蓄冷式冷凍機の排熱部を冷却します。蓄冷式冷凍機と蒸気圧縮式冷凍機を組み合わせて低温から室温まで熱をカスケード的に組み上げる冷凍機構成とする点がポイントになります。
本冷凍機構成では、中間温度での熱交換を限られた空間で効率よく行う必要があります。このため熱交換の空間に熱交換物質を充填し、外部とは断熱構造により熱の外部空間への流出を抑える構造や、高温端の気体が通過するエリアに液体冷媒の流れる領域を作り、伝熱面積の確保や接触抵抗の低減を行い、十分に熱交換が出来る構造を有することが特徴となります。加えて、中間温度の設定を、蓄冷式と蒸気圧縮式の両者の冷凍機の消費電力の総和が最小となるように設定する制御法も特徴です。

論文情報

蓄冷式冷凍機である磁気冷凍機に関する論文として、以下の論文の掲載実績があります。

[1]  Naoki Hirano, Setsura Nagai, Yunzhi Xie, Tetsuji Okamura, “ Basic research of HTS coil cooling assist technology by magnetic refrigeration”, Journal of Physics: Conference Series, 1559 (2020) Doi: 10.1088/1742-6596/1559/1/012090

[2]  N. Hirano, S. Nagai, Y. Okazaki, T. Okamura, Y. Onodera and T. Mito, "Feasibility Study of High-Efficiency Cooling of High-Temperature Superconducting Coils by Magnetic Refrigeration", IEEE Transactions on Applied Superconductivity, vol. 31, no. 5, Aug. 2021, 0600104, Doi: 10.1109/TASC.2021.3055994.

[3]  Naoki Hirano, Yuta Onodera, Toshiyuki Mito, Yuma Ueno, Akifumi Kawagoe, “ Development of Static Magnetic Refrigeration System Using Multiple High-Temperature Superconducting Coils”, IEEE Transactions on Applied Superconductivity, vol. 32, no. 6, Sep. 2022, 0500105, Doi:10.1109/TASC.2022.3152456

[4]  Naoki HIRANO, Yuta ONODERA, Toshiyuki MITO, Yuta MOTOKI and Akifumi KAWAGOE, “Basic research on a magnetic refrigeration system for cooling to liquid hydrogen temperature, IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY 33, No.5 (2023) 4702605

関連する特許出願番号・特許番号

極低温の冷却に対して蓄冷式冷凍機の一種である磁気冷凍機とターボブレイトン冷凍機を組み合わせたシステムの検討を行い、特許出願(登録番号6769850)を行っています。
また、本研究に関係した特許を、すでに以下の2件が出願済みです。

関連する特許出願番号・特許番号

出願番号:特願2021-82025
発明の名称:カスケード式極低温冷凍機

出願番号:特願2023-171069
発明の名称:蓄冷型冷凍システム

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