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2024年度 研究シーズ

RNA干渉法を用いた新奇害虫防除法の研究開発

基礎生物学研究所・教授 新美 輝幸

研究キーワード

RNA干渉法 , 害虫防除法 , 生物農薬 , ナミテントウ , RNA農薬

研究概要

爆発的な人口増加に伴い世界規模での食糧不足が緊迫するなか、農作物の約3分の1が病害虫により消失しており、世界規模での食糧増産を果たす上で、いかに害虫を管理するかは重要な問題です。従来の害虫管理は、主に化学農薬に頼っており、農薬市場は世界中で年間約3兆円の市場規模に膨らんでいます。化学農薬は人畜に対する安全上の課題や環境負荷が大きく、害虫は化学農薬に対する耐性を短期間のうちに獲得するため、次々と新たな作用点を持つ薬剤の開発を余儀なくされています。持続的な農業生産を目指す上で、これら既存の害虫管理の限界を打破する新たな技術の開発が望まれています。 私達は、RNA干渉(RNAi)を利用して害虫の生存に必須な遺伝子の二本鎖RNAを摂食させることによる遺伝子阻害法を利用し、標的害虫のみを駆除することが可能な画期的な方法(RNA農薬)を発見しました。そこで、この原理を利用した安全で耐性昆虫の出現を許さない非GM(Genetically Modified)型新奇害虫防除法を開発するため、(1)非GM型新奇農薬としてRNA農薬の実用化に向けた基盤研究、ならびに(2)RNAiを利用した高付加価値化した非GM型新奇生物農薬の創生に向けた基盤研究を行ってきました。その成果として、(1)害虫の生存に必須のアポトーシス阻害因子 (Inhibitor of apoptosis; Iap)由来の二本鎖RNAをジャガイモ害虫であるニジュウヤホシテントウに摂食させたところ、速効的な摂食停止と致死をもたらすことを明らかにしました(図1)。(2)RNAi法を利用して、生物農薬としての天敵昆虫利用の際の欠点を補う“翅なしテントウムシ”作出に成功しました。現在、生物農薬として有用な形質をもたらす新規遺伝子を単離し、二本鎖RNAの摂食に基づく遺伝子機能阻害により、様々な高付加価値化した非GM型機能改変天敵昆虫の開発を行っています。

想定される応用先・連携先

農業害虫防除、衛生害虫防除、家屋害虫防除、ダニ防除、外来種防除、線虫防除など。

アピールポイント

本研究の独創性は、生体高分子であるRNAを直接農薬として利用する点にあります。原理はきわめて単純であり、二本鎖RNAを害虫が摂食することにより、生存に必須な遺伝子の機能を阻害するRNAi法に基づいています。これまでチトクロームP450、V-ATPaseなどの生存に必須な遺伝子の二本鎖RNAの摂食および二本鎖RNA発現遺伝子組換え植物を用いた害虫防除法が、さまざまな害虫を用いて試みられていますが、これらの従来の方法は防除効果が表れるまでに1週間以上も要するため速効性がなく、また害虫の致死率も100%に達していません。開発者らのこれまでの研究からiap 遺伝子を標的としたRNA農薬の効果は絶大であることが明らかになっています。
開発者らは通常、RNA農薬の有効量の10,000倍以上ものRNAを日々食物から摂取していることからRNA農薬の人体への影響は考えにくく、RNA農薬は従来の化学農薬に比べ圧倒的に安全であり、環境影響も小さいと考えられます。また、標的RNA配列の選択により標的害虫の特異性を自在に設計でき、従来の農薬では常に問題となる耐性昆虫の出現も抑制できます。

論文情報

  • Ohde, T., Masumoto, M., Morita-Miwa, M., Matsuura, H., Yoshioka, H., Yaginuma, T. and Niimi, T. (2009) Vestigial and scalloped in the ladybird beetle: a conserved function in wing development and a novel function in pupal ecdysis. Insect Mol. Biol., 18, 571-581.
  • Chikami, Y., Kawaguchi, H., Suzuki, T., Yoshioka, H., Sato, Y., Yaginuma, T. and Niimi, T. (2019) Oral RNAi of diap1 in a pest results in rapid reduction of crop damage. bioRxiv, doi: https://doi.org/10.1101/737643.

関連する特許出願番号・特許番号

特許番号 :特許第4911731号
発明の名称:テントウムシ科の昆虫を含む生物農薬

特許番号 :特許第5305489号
発明の名称:害虫防除方法

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