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2024年度 研究シーズ

新規光学材料を用いた長期間安定な広範囲の透明観察窓の作成法

生理学研究所・教授 根本 知己

研究キーワード

生きたままの観察 , 光学顕微鏡 , 疾患モデル動物 , 遺伝子導入 , 外科手術

研究概要

モデル動物やヒトなどを生きたままの状態で、組織の深部を詳細に観察するために、多光子励起顕微鏡法、光干渉断層計、光音響顕微鏡などの方法が提案されています。特に、広範囲かつ立体的な構造を長期間にわたって観察するためには、生体に影響を与えない透明な観察窓を身体の表面に安定的に設置する必要があります。例えば、マウスの生体脳の神経細胞を高精細に光イメージングする場合、通常は頭蓋骨が光の散乱や吸収の主な原因となるため、部分的に頭蓋骨を除去し、カバーガラスで作られた透明な観察窓に置き換える手術であるオープンスカル法が用いられます。
私たちは東海大学の岡村陽介教授と協力し、新しい生体適合性ナノ材料である高分子超薄膜(ナノシート)を使用した観察窓の作成法を提案しました。ナノシートは、高分子ポリマーを素材とする厚さ100 nm前後の薄膜であり、生体組織に「ばんそうこう」のように簡単かつ強固に接着し、傷口の出血や炎症を抑制する効果があることが知られています。私たちはマウスの脳の観察窓作成に適したPEO-CYTOPナノシートを設計しました。このナノシートは、低屈折率かつ光透過性の高いCYTOPを主な素材とし、生体適合性を持つポリエチレンオキシド(PEO)による表面修飾を使用して接着面を親水化し、生体組織に対する接着力を向上させています。本機能性ナノシートが有する高い接着力による止血効果だけでなく、高い柔軟性と透明性を活用して頭頂部全体に観察窓を作成する技術を確立し、従来は困難であった広範なin vivoイメージング(生体イメージング)を成功させました。

Takahashi, et al., iScience 23 (10), 101579. (2020)より.

想定される応用先・連携先

この超広範囲イメージング法は多数の神経細胞の活動を高精度観察や遺伝子導入を可能とし、精神疾患モデル動物での半年以上の連続した長期観察が可能とすることから、新しい治療法の効果などを直接的に検証することも可能となります。さらに、身体中で多様な部位、組織の生きたまま同時観察にも応用ができ、癌や免疫疾患などの研究基盤の形成に繋がります。このように将来的には多様な医療的な技術のための基礎技術となるでしょう。

アピールポイント

近年報告された広範囲観察窓では、厚さが100~300 μm程度の、曲げたガラス、シリコンやPETを窓材料としています。いずれの素材も屈折率が高いために脳組織との屈折率差から大きな光学収差を生じてしまうため、高精度の観察が困難でした。また、それらは限定された大脳皮質の一部領域のみを対象としており、広範囲での神経細胞を可視化できる手法は報告されていません。また、最先端のナノ材料であるナノシートに着目し、汎用的なガラスやシリコン材料を代替する新規手法であるため、その独創性・新規性は極めて高いものとなっています。

論文情報

  1. Taiga Takahashi, Hong Zhang, Kohei Otomo, Yosuke Okamura, and Tomomi Nemoto. “Protocol for Constructing an Extensive Cranial Window Utilizing a PEO-CYTOP Nanosheet for in Vivo Wide-Field Imaging of the Mouse Brain.” STAR Protocols 2 (2): 100542. (2021).

  2. Taiga Takahashi, Hong Zhang, Ryosuke Kawakami, Kenji Yarinome, Masakazu Agetsuma, Junichi Nabekura, Kohei Otomo, Yosuke Okamura, Tomomi Nemoto. “PEO-CYTOP Fluoropolymer Nanosheets as a Novel Open-Skull Window for Imaging of the Living Mouse Brain” iScience 23 (10), 101579. (2020).

関連する特許出願番号・特許番号

出願番号 :特願2023-188040
発明の名称:光学部材とその製造方法

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