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2024年度 研究シーズ

バルク材料の欠陥分析を可能にするガンマ線誘起陽電子分光法

分子科学研究所・准教授 平 義隆

研究キーワード

ナノメートル欠陥分析 , 陽電子 , ガンマ線

研究概要

電子の反粒子である陽電子は、電子と消滅することで2本の消滅ガンマ線を放出します。物資中では内部にある欠陥に捕獲された後に陽電子が消滅します。その消滅過程には次の2つの特徴があります。

  1. 陽電子が消滅するまでの寿命は周囲の電子密度に依存するため、電子密度の低い欠陥で陽電子が消滅すると寿命は長くなる。
  2. 消滅ガンマ線のエネルギー広がりは消滅相手の電子の運動量を反映するため、外殻電子と消滅するとエネルギー広がりは狭くなり内殻電子では広くなる。

したがって、陽電子の消滅寿命スペクトルを測定することで、物質内部の欠陥の大きさや種類を非破壊で分析することができます。また、エネルギー広がりを測定することで、元素分析も可能となります。この陽電子消滅分光法は、他の測定方法では困難な結晶を構成する原子の一部が存在しない単原子空孔型欠陥や高分子中のsub-nm ~ 数nm程度の微小空隙の測定を行えることに大きな特徴があります。測定可能な材料は金属、半導体、セラミックス、高分子、ガラスなど多岐にわたります。
従来は、陽電子を放出する放射性同位元素を用いて陽電子計測の開発が行われてきました(図1下)。一方で、陽電子はガンマ線から対生成と呼ばれる現象によって物質内部で発生できます。分子科学研究所の極端紫外光研究施設UVSOR-IIIのBL1Uでは、図1上に示すように超短パルスガンマ線を用いて陽電子の寿命を測定するガンマ線誘起陽電子消滅寿命測定法(Gamma-ray induced positron annihilation lifetime spectroscopy: GiPALS)を開発しました[1]。
現在は、GiPALSのユーザー利用が可能であり、年間36週×60時間/週の合計2,160時間のビームタイムをユーザーに供しています。主なユーザーは大学や研究所が多いが、企業ユーザーも利用可能です。GAGGシンチレータの欠陥分析については[2]で発表しています。
その他、鉄系合金や発光材料、蓄光性材料、触媒材料において興味深いデータが得られ始めており、今後研究成果を公表する予定です。

図1:GiPALS(上)と従来法(下)の陽電子計測の概要。

想定される応用先・連携先

UVSOR-III BL1Uで開発しているガンマ線誘起陽電子消滅分光法で測定可能な材料は金属、半導体、セラミックス、高分子、ガラスなど多岐にわたっています。ガンマ線は物質に対する透過性が高いために厚さ数cmのバルクの実材料内部に存在する欠陥を非破壊で分析することができます。試料測定は大気中で可能であり、数100℃の加熱雰囲気で測定することも可能です。金属と水素の相互作用については未解明の機構が存在するため、欠陥分析により水素脆化機構の解明やカーボンニュートラル達成に向けた水素貯蔵合金の性能評価などに貢献できます。

アピールポイント

陽電子計測において一般的に用いられる方法は、陽電子を放出する放射性同位元素を用いた方法です。図1下に示すように陽電子を直接試料に照射して行われているが、この従来法と比べたGiPALSの優位な点を以下に3つ挙げます。

  1. 従来法では表面から1 mm以下の領域しか測定できないのに対して、GiPALSでは厚さ数cmのバルク材料全体に陽電子を発生することができる。
  2. 従来法では線源成分と呼ばれるバックグラウンドが存在するが、GiPALSではそれが著しく低いためノイズの低いデータが得られる。例えば従来法では寿命スペクトルに10%程度の線源成分が混入するが、GiPALSでは試料由来以外の寿命成分は0.1%以下である。そのため、バックグラウンドが2桁以上低く、これまで線源成分に埋もれて解析不能であった陽電子寿命の詳細な測定が可能である。
  3. 円偏光の超短パルスガンマ線から偏極度の高いスピン偏極陽電子の発生が可能であるため、磁性材料の測定も可能である。

論文情報

[1] M. Kitaura, Y. Taira, S. Watanabe, “Characterization of imperfections in scintillator crystals using gamma-ray induced positron annihilation lifetime spectroscopy”, Optical Materials: X , vol. 14, 100156, (2022).

[2] Y. Taira, R. Yamamoto, K. Sugita, Y. Okano, T. Hirade, S. Namizaki, T. Ogawa, Y. Adachi, “Development of gamma-ray-induced positron age-momentum correlation measurement”, Review of Scientific Instruments, vol. 93, 113304, (2022).

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