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2025年度 研究シーズ

ミリ波・テラヘルツ波帯における正確な誘電率の測定

国立天文台・技術員 坂井 了

研究キーワード

ミリ波・テラヘルツ波 , 誘電率測定 , 自由空間法 , 角スペクトル法 , 準光学

研究概要

ミリ波・テラヘルツ波帯における誘電率測定技術の一つである自由空間法に対し、測定結果から誘電率を正確に導出する新たな解析方法を考案しました。自由空間法の測定系は、一般に対のホーンアンテナ、レンズや凹面鏡などの光学素子、平板形状の試料、およびベクトルネットワークアナライザで構成されます(図1、図2)。送信側のホーンアンテナより放射され、光学系を伝搬したビームが試料を透過した後に、対のホーンアンテナで受信され、振幅と位相を測定します。解析では、ある誘電率に対する理論値と測定結果を比較し、残差が最小となる誘電率を反復計算により推定します。従来、理論式に用いられてきたモデルは、入射ビームの面内電界分布が振幅・位相ともに一様であるという近似(平面波近似)に基づいており、特にビーム径の小さい光学系ではこの近似に起因する誤差が顕著になります。一方、ビーム径を大きくすれば近似誤差は軽減されますが、回折の影響により小径試料の正確な測定が困難になるという課題がありました。
本研究で考案した解析方法では、光波伝搬計算方法の一つである角スペクトル法を用いて、任意の電界分布を持つ入射ビームに対して透過・反射・伝搬を厳密に計算することで、平面波近似に起因する誤差を回避できます。物理光学およびモーメント法による電磁界シミュレーションを用いて、さまざまな入射ビーム径におけるテストデータを生成し、これらに従来方法と考案した解析方法を適用し、解析に起因する誤差を評価しました。その結果、ビーム径の小さい光学系では従来方法と比較して誤差が約100分の1に低減され、提案方法の妥当性が示されました(図3)。さらに、超高分子量ポリエチレンの誘電率を実測し、共振器法による測定値と良好な一致を確認しました。
今後は、収束ビーム光学系による小径試料の測定や、角スペクトル法を用いて平面波近似の誤差を抑えつつ、計算量を大幅に低減した解析アルゴリズムの開発を進める予定です。

図1:自由空間法の測定系の写真
図2:自由空間法の測定系の構成
図3:電磁界シミュレーションによる解析方法の妥当性検証

想定される応用先・連携先

次世代高速通信分野(Beyond5G/6G)への応用が期待されます。具体的には、高周波回路用基板、電波吸収体、誘電体アンテナ、レドームといった用途を対象とした材料開発への貢献が見込まれます。

アピールポイント

・大きな試料が準備できない場合でも、正確に誘電率を測定可能です。
・既存の光学系がそのまま使用可能です。
・(自由空間法の特徴として)共振器法と比較して試料の形状・加工誤差に対する要求が小さいです。

論文情報

R. Sakai, A. Gonzalez, K. Kaneko, H. Imada, T. Kojima, N. Sekine, and Y. Uzawa, “Accurate Free-Space Measurement of Complex Permittivity With the Angular Spectrum Method”, IEEE Trans. Terahertz Sci. Technol., Vol. 13, No. 4, 2023

関連する特許出願番号・特許番号

出願番号:特願2024-101099
発明の名称:誘電体の誘電率測定方法及びその方法の妥当性を検証する方法

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