中赤外短パルスレーザーによる新規樹脂フィルム加工法
研究キーワード
レーザー加工 , 積層樹脂フィルム加工 , ディスプレイパネル , 中赤外レーザー
研究概要
近年、モバイルフォンや車載ディスプレイ用途として積層樹脂フィルムから成るディスプレイパネルが開発、上市されています。ディスプレイパネルの切断等を高精度に行うために樹脂の吸収特性に適合した新規波長のレーザー光源での加工が要求されています。開発者らはPET樹脂の吸収極大波長2920nmにおいて高出力で発振するEr:YAPパルスレーザーを独自開発することに成功しました。新たに開発した加工用中赤外レーザー光源は、発振波長2920nm、パルス幅90ns、パルスエネルギー 50μJ、ピーク出力600Wであり、当該波長帯の固体レーザーでは世界最高レベルの出力特性を有しています。この光源に加え、中赤外波長用の特殊ミラーや特殊レンズ等を用い、ビームスポット半径が9 〜 10μmで、自動スキャン可能な微細加工システムを構築することに成功しました。
想定される応用先・連携先
近年、モバイルフォンや車載ディスプレイに対して軽量化や自由形状化といった新たな付加価値が求められており、機能性を付与した積層樹脂フィルムから成るディスプレイパネルが開発、上市されています。本研究で提案・検証する加工法は、ディスプレイパネル製造過程で求められる積層樹脂フィルムの高品位かつ高スループットな加工を可能とする新規技術です。今後は、ディスプレイパネル製造過程で求められる積層樹脂フィルムの高品位かつ高スループットな加工を実現すべく、本システムを用いた加工技術を世界に先駆けて提供し、産業界と共同で産業グレードの中赤外レーザー加工機の開発を目指します。
アピールポイント
本研究では、波長2.92μmにおいて高出力で発振するエルビウム添加イットリウム・アルミニウム・ペロブスカイト(Er:YAP)レーザーでの加工を新たに提案しました。図1に示す樹脂材料は、波長2.8~3.5μmにおいて吸収性が高く、特にEr:YAPレーザー波長の2.92μmでは、特異的な吸収特性を有しています。そのため、Er:YAPレーザーは、樹脂フィルム加工用途において優位性が高く、高品位で高スループットな加工用光源としての応用が期待できます。波長3μm近傍では、Er:YAGレーザーが歯科治療・皮膚治療など医療分野でいち早く実用化されていますが、中赤外レーザーを用いたガラスや樹脂材料等のレーザー加工は十分に実証されていません。今回開発した中赤外レーザー加工システムを用いることで、ディスプレイ材料として一般的なポリエチレンテレフタレート(PET)を極めて高品位かつ高速で微細加工することが可能となります(加工結果の詳細はお問い合わせください)。
論文情報
- Weichao Yao, Hiyori Uehara, Hiroki Kawase, Hengjun Chen, and Ryo Yasuhara, “Highly efficient Er:YAP laser with 6.9 W of output power at 2920 nm,” Optics Express 28, 19000 (2020).
- Hiroki Kawase, Hiyori Uehara, Weichao Yao, Hengjun Chen, and Ryo Yasuhara, "Optical chopper based mechanically Q-switched ~3 μm Er:YAP single-crystal laser," Japanese Journal of Applied Physics 60, 012002 (2021).
- Hiyori Uehara, Shigeki Tokita, Junji Kawanaka, Daisuke Konishi, Masanao Murakami, Seiji Shimizu and Ryo Yasuhara, “Optimization of laser emission at 2.8 μm by Er:Lu2O3 ceramics”, Optics Express, 26, 3497-3507 (2018).
- Hiroki Kawase, Hiyori Uehara, Hengjun Chen, and Ryo Yasuhara, “Passively Q-switched 2.9μm Er:YAP single crystal laser using graphene saturable absorber”, Applied Physics Express, 12, 102006 (2019).