TRPチャネルを標的とする薬剤開発
研究キーワード
TRPチャネル , 痛み , 痒み , 発汗
研究概要
TRPチャネルは感覚神経を含む多くの細胞で発現してさまざまな生理機能に関わっています。特に温度を感知して活性化する温度感受性TRPチャネルは、感覚を制御する薬剤の格好の作用標的です。開発者らはこれまでに、カルシウム透過性が高いTRPチャネルを通って流入したカルシウムイオンがTRPチャネルと複合体を形成するカルシウム活性化クロライドチャネルanoctamin1を活性化することを報告しました。また、TRPV4とanoctamin1の機能連関は、脳の脈絡叢上皮細胞では脳脊髄液分泌を、唾液腺や涙腺ではそれぞれ唾液や涙の分泌を、TRPV1とanoctamin1の感覚神経での機能連関がクロライドイオン流出からさらなる脱分極による痛み感覚の増強をもたらすことを明らかにしました。さらに、TRPV4とanoctamin1の機能連関が発汗にも関わっていることを明らかにしつつあります。
唾液や涙が出にくいことは近年大きな問題となっており、効果的な発汗制御薬はありません。また、サプサイシン受容体TRPV1は1997年に遺伝子クローニングされ新たな鎮痛薬の開発が期待されましたが、いまだにTRPV1の機能阻害剤は鎮痛薬として使われていません。したがってTRPチャネルとanoctamin1の複合体形成を阻害することやanoctamin1を活性化あるいは阻害することは、新しい薬剤開発につながります。開発者らは、TRPV1, TRPV4, anoctamin1をともに阻害する新たな薬剤として4イソプロピルサイクロヘキサノールを同定しました。
想定される応用先・連携先
鎮痛薬、鎮痒薬、唾液分布刺激薬、涙分布刺激薬、制汗剤の開発
アピールポイント
本技術の特徴は、以下の通りです。
- アノクタミン1を標的とした薬剤は開発されていない。
- TRPチャネルを標的とした薬剤は開発は非常に少なく、TRPチャネルとアノクタミン1の複合体形成制御をメカニズムとした薬剤開発も行われていない。
論文情報
- Takayama Y, Shibasaki K, Suzuki Y, Yamanaka A, Tominaga M. Modulation of water efflux through functional interaction between TRPV4 and TMEM16A/ anoctamin 1. FASEB J. 28: 2238-2248, 2014.
- Takayama Y, Uta D, Furue H, Tominaga M. Pain-enhancing mechanism through interaction between TRPV1 and anoctamin 1 in sensory neurons. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 112(6): 5213-5218, 2015.
- Takayama Y, Furue H, Tominaga M. 4-isopropylcyclohexanol has potential analgesic effects through the inhibition of anoctamin 1, TRPV1 and TRPA1 channel activities. Sci. Rep. 7: 43132, 2017.
- Derouiche S, Takayama Y, Murakami M, Tominaga M. TRPV4 heats ups ANO1-dependent exocrine gland fluid secretion. FASEB J. 32 (4): 1841-1854, 2018.
関連する特許出願番号・特許番号
出願番号 :特願2017-158822
発明の名称:活性抑制剤および皮膚感覚過敏抑制剤